「にほんご90日」Q&A

 『にほんご90日』は日本語教育機関で教えている現場の日本語教師のアイディアから生まれ、新しい試みにも挑戦しています。すでに次のような質問が寄せられていますのでご紹介します。


◆質問◆

1.短期の学習者に使いやすそうだと思う。

2.1日1課というコンセプトはいいが、切り捨てている部分もあり、学習項目が少ないように感じる。

◆答え◆

 上の二つのご意見は、私たち制作班にとってはちょっと意外なご意見です。本書は3巻で、日本語初級のシラバスをほとんど網羅してあるはずです。これをチェックするためにはたとえば、「日本語能力試験 出題基準」の3級(初級に対応)の文法のシラバス一覧をご覧ください。100パーセントではありませんが、おそらく90パーセントのシラバスをカバーしていると思います。既刊の初級教科書と比べても、学習項目の多いほうの部類に入ると確信しております。ということは、短期でスピーディーに学習したい学習者よりは、6か月間毎日みっちりと勉強を積み上げていきたいという学習者に向いていると考えています。

 


◆質問◆

CDは教室で使うので、別売りにしてほしい。

◆答え◆

 これまでの既存の教科書はカセットテープのほうが多く、CDブックとして発行するにあたりリサーチもしました。日本語教育機関ではカセットテープ対応との学校もまだありますが、学習者は圧倒的にCDを好みます。そこで学習者に教室外でも日本語の正しい発音を繰り返し聞いてもらえるように、テキストに添付したCDブックにして、定価もCDは“おまけ”という料金設定です。しかし、別売りでというご要望もあることは考えられましたので、CDなしの本冊も用意してあります。ユニコム・販売部まで、お問い合わせください。

 


◆質問◆

練習問題がもっと多いほうがいいのでは。

◆答え◆

 練習の量について、これでは不足だとは思いませんが、できればもっと作りたかったというのが、私たち制作班の本音です。しかし、「にほんご90日」は本冊3冊だけでもすでに合計600頁を越えるボリュームがあります。たとえば、各課にもう一つずつだけ練習を加えても、また50〜100頁ほど増えることになり、これは肥満状態(?)です。そこで、練習を補うべく、「練習帳」を別冊に作成することも考えられます。これについては、今後の検討課題とさせていただきたいと思います。また、別の案として、ホームページやメールを使った補充問題の提供などのサポートも版元では考えています。

 


◆質問◆

 文法的な説明がないので、独習には向かないのでは?

◆答え◆

 媒介語を使わない日本語による「文法的な説明」とは、たとえばどのようなものでしょうか。初級の教科書では具体的に思い当たるものがちょっとないのですが・・・。語彙も表現も限られている中で文法を日本語でどうやって説明するか。そこが教科書、及び、教師の教室での作業の工夫のしどころです。

 「文法」とは、文型と表現が大部分を占めます。中級、上級になれば、文法の授業とは、99パーセントが表現文型の導入だと言えます。中級以上になれば、その表現文型の使い方と規則を日本語の文章で説明することがかなり可能になります。しかし、初級ではどうやって説明できるでしょうか。学習者を前にしては、実演やレアリア(実物)やその他の手段をもちいることもします。一方、教科書で書き表す場合は例文が中心的な手段になります。導入する文型の典型的、標準的例文をいくつか示しますが、それがどうのこうのという説明をしようとしても無駄でしょう。学習者自身がそれらの例文から共通項を引き出して、「なるほど、この文型はこういう意味か、こういう場面で使われるのか、それじゃあ、自分の母語の××に近いんだ」と類推をしていきます。こういったプロセスへ学習者を導くために本書の「文の形」があります。本書では、「文の形」から、さらに「練習」をすることで、学習者の推測が確信に変わるはずです。そして、「この文型を覚えたい→覚えよう」というプロセスを通って、「実際に使える、運用できるようになる」ところまで導くのが教師の仕事です。

 言葉の勉強には、類推する能力が非常に重要で、記憶力よりももっと重要といえるかもしれません。学習者の類推力を正しく、そして最大限に引き出す授業が「いい授業」です。授業では、「説明を与える」ことよりも、学習者の「理解を引き出す」ような舵取りのほうがずっと重要です。このように、いわゆる「説明」は初級の学習者にはそれほど重要ではないと私たちは考えます。もちろん、説明をほしがる学習者もいます。そういう人のため、または、独習者で、類推の舵取りをしてくれる人がいない場合を考えて、別冊「マニュアル」(現在、英語版の未発行。中文版・韓国語版は制作中)に「文法解説」を入れました。これをご活用いただければ、と思います。


 

◆質問◆

 新出語のイラストは視覚的に分かりやすいですが、誤解をまねくなど両刃の刃なので、注意が必要だと思います。どのように配慮していますか?

◆答え◆

 おっしゃるとおりです。たとえば、「あげる」のイラストと「貸す」は同じ絵になるかもしれません。しかし、「貸す」の絵の受け手側に「いつまでに返したらいいですか」というような吹き出しを加えることで、混同は避けられるでしょう。そのような工夫は、私たち制作班も極力したつもりですが、それでもやはり語の意味が絵だけでは明確に示されない場合が少なくありません。

 ただ、媒介語を使わないで語彙をインプットするには、どうしたらがいいのでしょうか。教室ではマイムなどの方法も、語によっては(少ないですが)使えます。しかし、本のページの上では、難しいでしょう。両刃のどちらの刃にもプラスの効用があるというナイフがあるといいですが。

 結局は、リスクを承知でも「両刃」を使うかどうかということでしょう。私たち制作班は、あえてこれを使いました。しかし、この両刃のマイナスのほうの刃にも、救いはあります。一つの救いは、教室には教師がいるということです。絵を使いながら語彙をインプットする中で、学習者がその語の意味を正しく把握したかどうか、教師はチェック、確認という作業をするはずです。それをしないとすれば、教師の存在価値はないでしょう。学習者が本を片手に独習するのと同じことになりますから。もう一つの救いは、『解説書』です。(「にほんご90日」マニュアル)には単語、表現の訳語が出ています。今のところ、この解説書は各国語版というわけにはいきませんが、英語版、中国語版、韓国語版が出そろえば、この三つでかなりの学習者をカバーすることができるでしょう。(すでに英語版は発行されています。)

 本書をお使いくださる先生方には、学習者が新出語の意味を正しく捉えているかどうかのチェック及び確認の作業をぜひしていただきたいと思います。蛇足かもしれませんが、以下、少々つけ加えさせてください。この語彙のチェック、確認の作業は、実は教師の「腕」が問われるところで、大変重要です。学習者にどんな質問をし、どんなやり取りをすれば、確認ができるのか。ポイントを外せば、かえって混乱を招くでしょう。この作業が的確に無駄なく行えるように授業の前にする準備は、教師経験の多い少ないに関わらず、「言葉を教える」どんな教師にとっても良い鍛錬になると思います。何卒先生方には、イラストの誤解を避けるための作業と「マニュアル」の活用により、本書の欠点をカバーしていただきたく、よろしくお願いいたします。

 


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