「にほんご90日」の使い方

 この『にほんご90日』はいろいろな使い方ができると思いますが、「ヒューマン・アカデミー日本語学校」で4年使ってきた状況を交えて、本書の使い方を著者の辻先生にご紹介いただきます。


◆学校の性格

 まず、私どもの学校は、2年ないし1.5年の就学期間の後に日本の大学に進学を希望している学生を主体としています。学生は、中国や韓国から来た学生が多いのですが、非漢字圏の学生も混じっています。漢字圏、非漢字圏の学生が混じっていること、与えられて期間に進学できる力をつけること、それらの課題を果たすための教材、教授法が求められているわけです。また、当校では2ないし3名の講師が1クラスを担当し、曜日によって講師が変わります。ほとんどの講師が非常勤で毎日学校に来るわけではないので、授業の引継ぎしやすくすること、授業の進度を予測して、見通しを立てやすくして、授業の準備をしやすくすることが必要です。


◆テキストの性格と使用の留意点

 初級の学習期間を約6か月とすると、その間の行事等を除いた授業日数は、ほぼ90日ないし90数日となります。そこで、毎日1課とし、6か月で90課。1課で提出するにシラバスは1つないし2つで、90日で初級で指導するべきシラバスをすべて学習することができます。一課にかける時間は2時間ないし3時間です。30課ごとにまとめられ、vol.1、vol.2、vol.3の3冊で90課です。1日1課としたことで、授業の月間計画、全体の進度調整もしやすくなりましたし、何よりも、担当講師が先の見通しをたてることができます。日々の授業の引継ぎでは、指導項目の定着状況や学生の様子に重点をおくことができます。さらに、1日1課で完結しているので、毎日の授業の構成がしやすくなります。どこから入って、どこに山を置いてといった授業のシナリオを、前日からひきずっているものがないので、その日の担当者が自分の好きなように構成できて、自分らしい授業をすることができます。

 いろいろな国の学生が、無理なく日本語の勉強に取り組めるよう、できるだけ絵が入れられています。 特に、その課で出てくる新しいことばは各課のはじめに絵で示されています。絵で表しにくいものはページの下にまとめて提出され、「マニュアル」と呼ばれている、文法解説ならびに翻訳書を見れば、わかるようになっています。語彙は進学する学生を意識して、積極的に提出されています。

 会話を自然にするために、会話的表現も多く取り上げられています。会話は、学生をとりまく学校生活を中心に、アルバイト先、日常生活での会話がとりあげられています。勉強している会話の場面が想像できるようにイラストが入っています。会話の登場人物がテキストのはじめに紹介されていますので、この絵を使ってペープサートを作って会話の練習をさせると、だれのことばかわかりやすくなるので、楽しく無理なく会話の練習ができます。また、文法文型を視覚的にとらえることで、学習が簡単に、よりわかりやすく、そしてより正確になると考えて、目で見てわかるように、「文の形」として図式化されています。必要に応じて、イラストも入っています。

 1課から15課までは、文型というより、名詞、動詞、形容詞、数の数え方、時の表し方、指示語など、語彙を覚えることが中心になります。かなり語彙数が多いので、たいへんですが、ゲームをしたりしながら、楽しく進められれば、いいと思います。その後、16課からvol.2の60課にかけては、動詞の活用を中心に勉強します。て形、辞書形といった活用形の作り方と、その活用形を使った文型の学習です。vol.3では、それらの活用形をまとめて、さらにそれらの活用形を使った文型を勉強します。はじめは覚える努力が必要ですが、その後は理解すること、使えるようになるまで練習することが課題になります。練習問題は、段階を踏んだ練習がしやすいように、語または節レベルの変換練習の部分を「形の練習」とし、文レベルの練習問題を「文の練習」として、分けられています。練習問題にもできるだけ絵が取り入れられています。

 一方、進学する学生のレベルを確保するために、「にほんご90日」では、第1課から漢字が使われています。1課から15課まではすべての漢字にふりがながついたいますが、16課からは既習のものや同じページで一度ふりがながついているものには、ふりがながつけられていません。文字の指導は、はじめの1週間がひらがな、つぎがカタカナ、つづいて各課の漢字と、毎日継続して行われます。学生、とくに非漢字圏の学生にとっては大変ではありますが、中級から突然漢字の嵐に見舞われて、方向を見失うことがないように、また、文字の学習を習慣付けることで、抵抗感が少なくなるように、「毎日の漢字」と称して漢字練習シートを用いています。漢字圏の学生に対しても漢字を教えるのかという声も聞きますが、本校の学生をみていますと、漢字圏の学習者に限って上級になっても初級レベルの漢字の読みを間違えたり、中国の簡体字を書きつづけたりする学生がいます。そこで、漢字は、似て非なるもの、意識して学習すべきものという認識をもってもらうためにも、漢字の読み中心に指導します。漢字圏の学生にも非漢字圏の学生に対しても同様に、クラスで、漢字の成り立ちを一通り指導し、その後毎日、6〜8字程度の漢字の音読み、訓読み、意味、書き順、関連の熟語などを漢字カード、漢字練習シート等を使って一斉に指導します。漢字の書き方に関しては、漢字練習シートに漢字を書いてくるのを宿題にします。非漢字圏の学生は、授業終了後、練習シートを使って漢字の書き方をゆっくり練習をさせます。当校では、途中で入ってきた学生や、非漢字圏の学生でどうしてもまだもうしばらくふりがなが必要だという学生には、16課からあとも、必要に応じて、ふりがなをつけたものを作って、渡しています。さらに、読むことに慣れるために、また、読めることのよろこびを感じてもらうために10課から10課ごとに読み物が入れてあります。そこまでの文型で読めるものです。新しいことばも出てきますが、マニュアルに語訳が出ています。

 以上、『にほんご90日』は6か月毎日学習する学生を意識して作られましたが、イラストを多く取り入れ、文法の指導項目を視覚化し、簡単に理解できるように作られていますので、時間を短縮して使うこともでき、短期の学習者および大学で学ぶ留学生に使っていただけます。さらに、自習用のマニュアルを授業に組み合わせることで、媒介語を用いた指導にも対応できると思います。

 


◆毎日の授業の進め方

 当校では、文字に頼りがちな中国、韓国の学生の目を、授業中、クラス活動に集中させ、聞くこと、話すことに集中させるため、また、文字の苦手な非漢字圏の学生の文字への抵抗をなくすために、授業はテキストをほとんど開かせずに進めます。教師はテキストの絵を拡大したものや、文字カードを用いて授業を進めます。そして、授業の最後や、区切りのところで、テキストを開かせて、学習してきたことを文字で確かめさせ、テキストのどこを勉強したのかを確認させます。

 毎日の授業では、まず、前日の授業の復習をして、ディクテーションをします。これは語彙レベルのもの、前日に勉強したカタカナ語や漢字の読み、そして文レベルのもの、前日に習った例文やそれを使ったQ&Aなどです。そして、いよいよ今日の課に入ります。

 まず、新しい語彙を提示します。テキストの「ことば」のイラストを拡大したカードを準備して、絵を見せながら、発音します。絵の下に文字も入れておいて必要に応じて見せます。次に、文型の導入に入りますが、板書や文字カードによって「文の形」に準じて文型を提示します。続いて形の練習、文の練習を口頭でしていきます。キューを出すときも、簡単なものは口頭で出しますが、テキストの絵を拡大したり、自分で書いたりして、絵や文字カードを多く使って、学生の負担を軽くし、文型の定着に集中できるようにします。

 一通り練習が終わったら、テキスト開いて、文の形をテキストで確認させます。必要な場合は、口頭で行った練習問題を板書させ、細かいチェックをします。再びテキストを閉じて、会話のイラストを拡大したものをボードに貼ります。そして、会話の登場人物のペープサートを使いながら、CDを聞かせます。場面を確認し、大意が取れているか確認します。さらに、何度か、リピートさせて、会話を覚えさせます。長い会話で覚えるのが大変な場合は、イラストの周りにキーワードを板書します。部分に分けて覚えさせることもあります。その後、ペアを組んで練習させ、発表させます。レベルが高ければ、応用もさせます。テキストの会話はいくつかありますから、覚えるまで練習させるもの、家で覚えてきて翌日発表させるもの、発話の練習にとどめるもの、と調節します。文型を定着させるためにゲームを取り入れることも心がけています。最後に、漢字の練習をします。宿題として、漢字の練習シートのほかに、形の練習と文の練習の部分をコピーして渡し、全部記入して翌日提出するようにさせています。提出したものはチェックして、返却します。

 以上が、基本の進め方ですが、担当する課や学生の調子で担当者は進め方の順序を変えることもあります。


◆週レベルの作業

 5課ごとに復習テストをします。毎週1回30分〜45分程度時間をかけて、作文の練習をします。文の完成問題など、1文レベルの作文から入って、小さい作文、長い作文へと進めます。また、日本事情として、電車の乗り方や身の回りの語彙などを勉強しますが、ここでマニュアルの関連語句を使うことができます。 また、これは週単位ではありませんが、学期を通して、歌を歌ったり、ビデオ見たり、スピーチなどのメニューを入れて、より楽しく勉強できるように工夫しています。

 


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